中国電力の「品質保証」電源事業部長・S氏はなぜ死を選んだのか

中国電力は1月29日、苅田知英社長が会長に就き、清水希茂副社長が社長に昇格する人事を発表した。新しく社長に就任予定の清水希茂氏は会見で「4月1日から始まる電力小売り自由化に対して柔軟に対応し、販売量を死守していきたい。安全確保を前提に島根原発2号機再稼働に全力を尽くし、業績を回復したい」と話した。

電力の小売り自由化に合わせて、今年4月から社長に就任する清水氏は、広島県呉市出身で現在63歳。火力や原子力を専門とし、中電最大級の火力発電所である三隅発電所(浜田市)の所長や2009年から2年間は島根原子力発電所で原子力本部長を務めた。中国電力の社長交代は2011年以来5年ぶりで、苅田社長は会長に就き、山下会長は相談役に退くという。


清水希茂氏は2009年6月の役員人事で電源事業本部の副本部長(常務取締役)に新任した。ところがその翌年の2010年4月13日に、同社の電源事業本部の部長が松江で自殺していた。清水氏の部下だったのだろうか。



中国電力 清水氏電源事業本部長 新任

2010年 中電会見
2010年3月記者会見



当時、中国電力は島根原発1、2号機で発覚した点検漏れ問題で、緊急対策本部で原因調査に当たっていた。同社電源事業本部の男性部長は4月13日午前、松江市のホテル駐車場で倒れているのが見つかった。松江署は現場の状況から、部長がホテルの部屋から飛び降り自殺を図ったとみていた。同署や中国電力によると、部長は12日夜はこのホテルに宿泊していた。


この事件を詳細にスッパ抜いたのが、ルポライターの明石昇二郎氏だった。民間上場企業に勤めている人が自殺とは穏やかではないが、なぜ死を選ばなければならなかったのか。そこで明石氏の当時2010年8月の記事から一部引用してみたい。自殺したS氏とは、中電の役員人事で検索すると出てくるようだ。また、その名前でネットで検索すると、当時精力的に活動していた様子も出てくるが、その人のことだろう。



島根原発1号機




なぜS氏は死を選ばなければならなかったのか? そもそもS氏は「品質保証」の担当者であって、不正を犯した当事者ではない。

「自殺したS氏(享年55)が同社の原子力品質保証担当部長に就いたのは、昨年2月(2009年2月)のことだった」。

「2004年11月、S氏は東京都内で開かれた講演会に講師として招かれ、次のような発言をしている。講演のテーマは『島根原子力発電所における品質保証への取組み』というものだ」。

「これからは、安全なのは当たり前。それでもトラブルは起こり得るが、それにどう対応するか、その処理プロセスを仔細に見ていただくことで信頼を得ていくようなスタンスが必要である。時代が求めるのは、活動のプロセスに信頼がおけるかの証拠であり、これを具現化するのが『品質保証』の活動である。事業者は、説明責任を果たすこと、自主保安体制をしっかり構築し運営していくことを決意しなければならない」(S氏)

「つまりS氏とは、島根原発における『品質保証』の要の人だった」。

「そんなS氏が品質保証部長に着任した直後の昨年3月(2009年3月)、島根原発1号機の『品質保証』を土台から揺るがす大問題が発覚する。1974年3月の運転開始から32年の間、一度も取り替えていなかったECCS(緊急炉心冷却装置)の部品『高圧注水系電動弁』を新品に交換しようとしたところ、サイズが合わなかったために交換できなかった。そこで中国電力は、部品を交換したかのように点検記録を改竄し、国に対してウソの報告をしていたのだ」。

「このたび明らかになった不正な点検箇所が最終的に511件にも及んだことから、この事件を多くの新聞は『点検不備』や『点検漏れ』などと報じているが、『国への詐欺事件』と呼んだほうがより実態に即していよう。その証拠に、騙され怒り心頭に発した経済産業省は中国電力に対し、国が認可するまで2基ある原発すべての運転を停止するよう命じている」。

「原発の暴走を防ぐ最後の手段とも言われるECCSで起きた不正を知った時のS氏のショックは、いかほどのものだったことだろう。自ら力説していた品質保証の要となる『自主保安体制』が、実はデタラメだったのである」。

「しかし、S氏が果たすべき『説明責任』の前には、大きな壁が立ちはだかっていた。『最終報告』から消された『品質保証』部長の足跡、というのも、この『緊急炉心冷却装置』不正事件は、前回の犠牲者を出した『土用ダム事件』で中国電力社内が揺れに揺れていた最中に発生していたからだ」。

「中国電力は今回、緊急炉心冷却装置で起きた不正を自ら公表している。以前のように内部告発者の登場を待つ必要がなかった点では多少の改善が見られるのは確かだ。この公表にS氏が深く関与していたことは、ほぼ間違いあるまい。彼の性格や人となりを知る同僚たちもまた、同様の見方をしている。だが、S氏の関与を示す記録や証拠はいまだ見つかっていない。中国電力の『最終報告』からも、S氏の存在は完全に〝消去〟されている」。


「S氏が自殺した当日とは、山下社長が島根原発に出向き、原発所員に直接訓示をする日だった。しかし山下社長はその訓示の中で、S氏がその日の朝に自殺したことについて一言も触れていないのである。所員たちは皆、自殺のことを知っているにもかかわらず」。

「山下社長が緊急炉心冷却装置不正事件の話を初めて耳にしたのは、社内で事件が発覚してから1年後の3月16日のことだったのだと、ご本人は記者会見などで主張している」。

「そんな山下社長に対し、S氏の自殺に対する同社最高責任者としてのコメントを求めた。訊ねたのは次の2点である」。

1、不正事件の原因調査に当たっていた部下が自殺したという事実に関し、御社の最高責任者である山下隆社長のご見解をお聞かせ下さい。

2、率直にお尋ねします。S部長はなぜ死んだのでしょうか。御社で同様の悲劇が繰り返されないためにも、御社で把握されているS部長の自殺の原因とその背景をお聞かせ下さい。


中国電力の「回答書」では、以下のように回答した。

「詳細については、個人に関わる問題であり、ご回答しかねるが、当社社員が亡くなったことは、大変残念なことである。最終報告書は、点検不備問題に関する事実関係、原因、再発防止策等について報告したものである」。


中国電力 役員人事
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