【日の丸・君が代の呪縛再考シリーズ8】政府・国会の動き

政府・国会では、当時の野中広務官房長官が法制化に向けて素早く動いたことが分かる。1998年5月から1999年8月に国旗・国歌法が成立するまでの動きを見てみたい。以下は朝日新聞からの引用。


1998年5月8日
教育課程審委が答申案「徹底を図る」と明記
2002年度に実施される完全学校週5日制での教育内容を話し合っている教育課程審議会(文相の諮問機関)の特別活動委員会は、日の丸・君が代について「指導の徹底を図る」とする答申案をまとめた。現行の学習指導要領では「指導するものとする」という表現で義務づけているが、さらに踏み込んだ表現になる。現在、卒業式や入学式の日の丸掲揚・君が代斉唱の実施状況が、地域的にばらつきが大きいため、文部省に指導強化を求める趣旨だ。そのまま審議会の答申となる可能性が強く、文部省はこれを新学習指導要領に反映させて指導を徹底させるとみられる。

卒業式などは学習指導要領上、ホームルームなどとともに特別活動に位置付けられている。特別活動委員会の答申案は「国際社会の中で生きていくうえで必要な日本人としての自覚や国際協調の精神を培い、国旗及び国歌の指導の徹底を図る」と記述。総会の下にある小、中、高校ごとの分科審議会に示され始めており、6日の中学校分科審議会では、賛成意見が相次いだという。

従来は「望ましい」との表現にとどまっていた日の丸掲揚・君が代斉唱は、1989年に告示された現行の学習指導要領で「指導するものとする」との表現に改められた。前回の教育課程審議会が、教育委員会と教員の板挟みにあっていた校長の要望にこたえて、指導の明確化を求めた結果だった。

文部省は90年度に義務化を導入し、95年春まで毎年実施状況を調べてきた。95年春の調査では、日の丸は9割台、君が代は7、8割台の実施率。しかし、23県が完全実施だった一方で、3都県の公立高校は入学式の君が代斉唱率が10%未満など、ばらつきが多かった。

また、体育館わきに日の丸を掲げたり、校長室で君が代を流したりした場合でも「実施」と回答するなど、実施は様々だ。このため、文部省は今春の実施状況を3年ぶりに調査している。

日の丸・君が代に対して、日教組は75年度の定期大会で、学校行事などでの強制に反対する統一見解を決定。文部省と和解した95年以降は運動方針に強制反対の記述は掲げていないが、統一見解は変えていないとの立場だ。全日本教職員組合(全教)は、運動方針で「押しつけに反対」と明記している。96年度中には君が代斉唱時の不起立などを理由に11人の教員が懲戒処分や訓告を受けた。

また、埼玉県立所沢高校では、学習指導要領にのっとった式をしようとした校長と、生徒とが対立。卒業式には卒業生のほとんどが出席せず、入学式には新入生の4割が欠席。学校現場では意見が対立していることをあらためて示した。

1998年5月13日
君が代指導・中高「音楽」に拡大
2002年度からの完全学校週5日制の教育内容を話し合っている教育課程審議会(文相の諮問機関)の芸術委員会は、小・中・高校の音楽の改善方針として「国歌『君が代』の指導の一層の充実を図る」とする答申案をまとめた。特に、小学校については、全学年で指導することを一層明確に示す方針を打ち出した。音楽の時間の君が代の扱いについて、現行の学習指導要領は小学校で触れているだけで、「各学年を通じ、児童の発達段階に即して指導する」と記述。その趣旨を開設した指導書で、入学式や卒業式などでいつでも歌えるようにする必要があるとしている。今回の答申案は、これを中学校、高校にも広げることになる。現在、中高では君が代を扱っておらず、答申案の内容が新指導要領に盛り込まれれば現場で混乱も予想される。

1999年3月2日
「日の丸・君が代」法制化検討・学校での混乱受け首相指示
政府は2日、日の丸、君が代の法制化を検討する方針を固めた。野中広務官房長官が記者会見で「内閣として法制化を含めて検討する時期にきているのではないか」と述べ、検討作業に入ることを明らかにした。野中官房長官は、同日朝、こうした考えを小淵恵三首相に伝え、首相が指示した。これを受けて野中氏は、古川貞二郎官房副長官に日の丸、君が代の問題を具体的に検討するよう伝えた。内閣官房が中心となって法制化を検討し、早ければ年内にも結論を得たい考えだ。

総理府によると、日の丸、君が代を国旗、国歌とする法律上の根拠はない。「長年の慣行で国民に定着している」との判断から国旗、国歌として扱っているとしている。文部省は学習指導要領で「入学式や卒業式などにおいては、その意義をふまえ、国旗を掲揚するとともに、国家を斉唱するよう指導するものとする」と明記し、これを根拠に教育現場に日の丸掲揚と君が代斉唱を求めている。

野中氏は会見で、卒業式を目前に控えて自殺した広島県立世羅高校の校長が、卒業式での日の丸、君が代の扱いをめぐって県教育委員会と教師らの間で板挟みになっていた問題を聞かれて答えた。

野中氏は「日の丸、君が代は国民各層に定着しているということや、学習指導要領にのせられているというだけで、国旗、国歌としての取り扱いをしてきた」と指摘。そのうえで「指導要領の扱いには広島など(教育現場によっては)問題があることを考えると、指導要領だけで対応させるのがいいか、長く定着したという位置づけだけでいいか、根本的な検討をしなければならない」と語った。

野中氏は、会見に先立ち首相にこうした考えを伝えた。首相は国会答弁では「国旗、国歌としての認識が確立、国民に定着しており、現時点での法制化は考えていない」と繰り返してきたことを指摘したうえで、これでいいかどうか官房長官のもとで検討してほしいと指示。これを受け、野中氏はただちに古川副長官に事務的に検討するよう要請した。

有識者による懇談会などは新たに設けず、古川副長官をトップとする政府内の組織を早急に発足させる方向だ。

日の丸、君が代の扱いをめぐっては、国旗、国歌として扱うことに「絶対反対」してきた共産党が従来の主張を転換し、「法律によって国旗、国歌の根拠を定めること」を呼びかける新見解をまとめている。野中氏が法制化に向けた考えを表明したのは、こうした動きもにらんでのことともられる。

「法的根拠を含めて検討」首相
小淵恵三首相は2日午後、日の丸、君が代の法制化検討について「よくよく考えてみて、法的根拠を与える必要を含めて検討したらということだ」と述べた。広島県立世羅高校の校長の自殺がきっかけか、この記者団の質問には「そればかりでなく、諸般の情勢を考えて検討することもありうるのではないか。学習指導要領だけでよろしいかも含めて検討してみたらどうか」と語った。

1999年3月3日
「国民に定着」論に共産党見解など弾み・政府、「日の丸・君が代」法制化検討・広島事件で急展開
日の丸と君が代の法制化問題が急浮上した。小渕恵三首相が2日、日の丸、君が代を国旗、国歌に位置づけるための法案を検討するよう指示したのは、「日の丸、君が代は国民に定着した」(野中広務官房長官)という認識や、法的根拠がないことから学校行事などをめぐって教育現場で混乱が起きているとみられているためだ。しかし法制化が現実味を帯びれば、政治の場だけでなく国民的な議論も再燃しそうだ。

「日の丸、君が代国旗、国歌との認識が確立し、国民に定着しており、現時点での法制化は考えていない」。先月25日の参院予算案で、小渕恵三首相は答弁していた。一週間足らずに政府は法制化に向け大きくハンドルを切った。中心になっているのが野中官房長官。野中氏は2日朝、有馬朗人文相に話かけた。卒業式を目前に自殺した広島県立高校の校長が、卒業式で日の丸、君が代の扱いをめぐって県教育委員会と教師らの板挟みになって悩んでいたという問題に触れた。「文部省の指導要領だけを根拠に、学校現場に日の丸掲揚や君が代斉唱を求めるのは難しいのではないか」

有馬氏の同意を取り付けた野中氏は、すぐに首相に法制化してはどうかと話した。首相のお墨付きを得た後の動きは素早かった。直ちに古川貞二郎官房副長官に検討を要請し、大森政輔内閣法制局長官にも官邸の考えを伝えた。

日の丸、君が代の法制化は古くて新しいデーマだが、政府が法制化も含めて本格的な検討をするのは初めてだ。昭和30年代、総理府総務長官や首席内閣参事官らでつくる、国旗や国歌などの問題を検討するための公式制度連絡調査会議で取り上げたことはあったが、法制化の具体的検討は見送られた。自民、社会両党中心の1955年体制のもとでのこの問題が具体化すれば、両党が激しく対立することが避けられなかったという背景もある。

93年には野党に転落した自民党の一部議員の間で法制化を探る動きが出たこともあった。「自民党らしさ」を全面に出したいという思惑と、保守系と社会党の議員が混在する連立与党の対する揺さぶりの狙いがあった。ただ、自民党が社会党と組んで、村山政権を発足させると、こうした動きも立ち消えになった。
当時の村山富市首相は、94年7月の衆院本会議で、「日の丸が国旗、君が代が国歌であるという認識は国民に定着しており、私も尊重したい」と表明し、社会党の委員長として基本政策を大きく転換もしていた。

今回はすでに内閣法制局や文部省、内閣政策審議室に「議論のたたき台をつくってほしい」との指示も出している。野中長官は2日、記者団に「今年か来年中にでも(法制化)できればよい」と明言するなど、かけ声だけでない本格的な検討になりそうだ。

意見分かれる民・公・社・共
政府が2日、日の丸、君が代の法制化を検討する方針を固めたことについて、与党には支持する意見が強い。野党側は「日の丸、君が代は国民に定着している」とみる民主、公明両党が前向きに受けとめる一方で、社民党は「法律による強制」を疑問視。共産党は日の丸、君が代の国旗、国歌化にあくまで反対する立場を改めて表明するなど対応が分かれている。自民党の森善朗幹事長は「子どもたちに国旗や国歌 を持ってはいけないというような印象を与えている  変えなければならない」・・・

日の丸法制化 法律で強制は野中氏否定的
野中広務官房長官は3日の記者会見で、法律で日の丸や君が代斉唱を義務づける意見が出ていることについて「強制できると法の中で位置づけるものではなく、国民の今日的理解を法律的に担保することが新世紀へのスタートになるのではないか」と述べた。法律で強制するのではなく、国旗は日の丸、国歌は君が代と法的に定義づけることが望ましいとの考え示したものだ。

参院の村上正邦前幹事長を中心とする自民党参院議員の勉強会が3日朝開かれ、「運用を学校現場に任せるのでは意味がない。法律にする以上、義務化するのは当然だ」という意見が相次いで出された。

教育審会長も法制化を支持
日経連の根本二郎会長(中央教育審議会会長)は3日の定例会見で、政府が日の丸、君が代法制化の検討に入ったことについて「学習指導要領での規定だけでは、国民に対する意思表示として、やや足りない」と指摘し、「論議するなかで世論が是とするなら、法制化してもいいのではないか」と法制化を支持する考えを示した。


1999年3月5日
「国旗・国歌法」を制定・政府方針・義務規定は盛らず
「日の丸」を国旗とし、「君が代」を国歌として法律に定めるための検討を始めた政府は4日、その基本的な方針を固めた。新しいひとつの法律を儲けたうえで、日の丸と君が代を国旗、国歌とする内容を盛り込んだ。また、教育現場での日の丸掲揚や君が代斉唱を義務づける規定は盛り込まないこととした。今後は国旗・国歌を尊重する内容を盛り込むかどうかなどについて、外国の例や国民の意識などを探りつつ具体化する方針だ。

野中広務官房長官は記者会見で、法制化について「『強要できる』と法の中で位置付けるものではない」「国旗・国歌の根拠を明確に位置づけようというもの」などと述べ、学校で義務づけるための規定は法案に盛り込まない考えを強調している。

法律の形式は、海外では憲法に明記しているケースもあるが、政府としては憲法には触れない方針。自衛隊法など国旗の掲揚を定めた関連法はあるが、日本には国旗と国歌そのものを扱う法律がないため、現行法の改正とはせず、新規の単独立法とする方針だ。

法案の内容は、これから本格的な検討に入るが、最も簡素な形にする場合は「国旗は日の丸、国歌は君が代と定め、漠然と尊重義務をうたう。全体で3条程度のもの」(文部省筋)が考えられるという。この場合でも、尊重義務をどのような表現にするかが議論になるとみられる。また、日の丸・君が代を国旗・国歌とする歴史的根拠などは法案に盛り込まず、法案の趣旨説明や国会審議などの中で示す方向だ。


1999年3月5日
「強制」根強い慎重論・与党も「まだら模様」
広島県の県立高校校長の自殺をきっかけに政府が検討を始めた日の丸・君が代の法制化問題が各党内に波紋を広げている。自民党や民主、公明両党前向きに受け止める一方で、時間をかけた慎重な議論をすべきだとの意見も出てきた。今後、検討が本格化すれば、①慣習として定着しているものをあえて法制化する必要があるか②法律に義務規定を盛り込まなくても事実上、強制力を持つことになるのではないか、といった点をめぐり議論が起きることになりそうだ。

●与党
自民党は文教族の幹部でもある森善朗幹事長が「いつまでも解釈論でやっていては教育現場が混乱するだけ。20世紀も最後になって、きちんとしておく必要がある」と推進論に立っている。ただ、党三役の中でも池田行彦政調会長は「法制化されればそれでいいし、されなくても国旗・国歌をおろそかに考えていいということはない」と中立的な立場をとる。

同党は今後、文教制度調査会などで検討するが、「そう急ぐ話ではない。しばらく議論をすればいい」(党幹部)と慎重な構えだ。というのも、党内の意見には、ばらつきがあるためだ。一方、自由党も方針は固まっていない。2日の党常任幹事会では、扇千景参院議員会長らが推進の立場をとったが、藤井裕久幹事長は「慣習法として育ったことに重きをおくべきだ」と慎重論を展開した。

●野党
法制化が教育現場などでの強制につながることはないのか―法制化自体には異を唱えていない民主党や公明党にも、時間をかけて議論すべきだという慎重論が広がりつつある。民主党は4日の政調審議会で「国旗・国歌プロジェクトチーム」の設置を決めた。法制化の是非や義務化条項を盛り込むかどうか―などについて早急に詰める構えだ。管直人代表は記者会見などで法制化に一定の理解を示す一方で、教育現場の裁量権を否定することには反対する考えを表明。「政治問題にしないで、識者や専門家が検討すべきだ」と強調している。

特に旧社会党出身議員には警戒感が強く、横路孝弘総務会長は「学校指導要領で義務づけてから反対運動ができた」として、「学校に強制するためなら、いかがなものか」と話す。公明党は4日の常任役員会でこの問題を話し合ったが、「ただちに法制化するのではなく、国民的合意の土壌をつくることが大事」といった慎重な意見も出た。国旗・国歌の定着は認めながらも、「国歌の権力で掲揚・斉唱を強制することはなじまないのではないか」(冬柴鉄三幹事長)などと、十分な議論が必要だとする空気が強い。君が代には、歌詞の内容などに違和感を訴える議員もいる。一方、社民党も日の丸と君が代は定着しているという認識だが、「法律で決めれば強制を生むことになるのではないか」(渕上貞雄幹事長)と慎重だ。共産党は「日の丸・君が代は国民的な合意も法的根拠もなく、国旗・国歌として使うことには反対だ」(志位和夫書記局長)とした上で、十分に議論したうえで国旗・国歌の根拠を法律で定める必要性を主張している。


日の丸・君が代法制化 各党の考え
自民党
わが国及び諸外国の国旗・国歌を尊重する心を養う(今年の統一地方選挙から)。
「子どもたちに国旗や国歌を持ってはいけないというような印象を与えている現実は、変えなければならない。法制化するのも一案ではないか。(森善朗幹事長、2日、記者団に)

民主党
「いろんな意見を国民から出せる機会をつくって、国民の大多数が納得できる形で決めていくのが望ましい。日の丸・君が代は国民に定着しているが、法制化イコール強制ではない。国民的合意を形成し、確認することだ。期限を厳しく切る問題ではない。(管直人代表、3日、記者会見で)

公明党
「日の丸は国旗にふさわしい。君が代も国民に定着している。軍国主義に利用された側面はあるが、教育現場でも日の丸・君が代の意味とか歴史的沿革を含めて議論するのは大事じゃないかと考えている」(神埼武法代表、2日、記者会見で)

自由党
「法制化の適否について政府が検討する様子を見ながら党としての意見をまとめる。党内には賛成する人もいるが、慣習法として育ってきたことに重きを置く人もいる」(藤井裕久幹事長、2日、記者会見で)

共産党
「国民的合意も法的根拠もないまま日の丸・君が代を国旗・国歌として国民に押し付けている現状を打開し、法律で根拠を定めることが必要。日の丸・君が代えお国旗・国歌とすることには反対を貫く」(志位和夫書記局長、2日、記者会見で)

社民党
「日の丸は国旗で君が代は国歌との議論に立つが、強制することは問題。法制化しなければならないかどうかを含めて慎重に議論を進めたい。改めて法律で位置づけなければならない状況かというと問題だ」(渕上貞雄幹事長、2日、記者会見で)

改革クラブ
「教育現場の混乱を回避するために法制化すべきだ。法制化は一般的に義務・強制を伴うのではないか」(石田勝之幹事長、4日、朝日新聞取材に)


日の丸・君が代法制化、近隣国の理解に努力、官房長が官見解示す
野中広務官房長官は5日の参院予算委員会で、日の丸・君が代の法制化に関連して「私たちは過去のすべてを点検しながら、憲法を踏まえて平和国家として歩んでいく道筋を、国旗・国歌(の法制化)を通じて明確にする意思表示として国際的にアピールしなければならない」と述べた。法制化にあたって中国や韓国などの理解を得ながら検討を進めるとの考えを示したものだ。民主党・新緑風会の円より子氏の質問に答えた。

学校現場での根拠が明確化、有馬文相
有馬朗人文相は5日の記者会見で、日の丸・君が代の法制化について「学習指導要領を根拠に卒業式、入学式での掲揚・斉唱を指導してきたが、成文法の規定がないということで学校現場の一部に反対があった。法制化されれば、よりしっかりした根拠が与えられ、国旗、国歌への正しい理解が促進される」と述べた。

1999年3月8日
「尊重規定」の扱い焦点、日の丸・君が代法制化
「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌とすることをひとつの法律で定める方針を固めた政府は、法律に盛り込むそれ以外の内容の検討も始めた。最大の焦点は「国旗と国歌を尊重する」というような「尊重規定」の扱いだ。国旗の掲揚などの義務化や、燃やすなどした場合の罰則は盛り込まない方針だが、規定の表現によっては、学校や公的な行事などでの日の丸掲揚、君が代斉唱の強制化につながる側面をもっている。法案の内容について政府は、「各党や国民の意見も聴く」(野中広務官房長官)として慎重に作業を進める構えだ。法制化までにはいくつかの問題がありそうだ。


強制化なお懸念も・罰則設けす政府が方針
主要国の国旗と国歌の定め方
世界の国国旗国家
米国国旗法国歌法
英国王室が宣告慣習による
フランス憲法憲法
ドイツ憲法首相と大統領の書簡交換で確認
イタリア憲法閣議で決定
ロシア大統領令大統領令
オーストラリア国旗法総督による公布
中国憲法全国人民代表大会(国会)で決定


海外の主要国の例を見ると、国旗については法律で定めている国が多い。国歌は憲法や個別の法律で定めている国は少なく、慣習によるものや閣議で決めるなど対応は様々だ。

日本政府は日の丸、君が代を国旗、国歌とするひとつの新しい法律をつくる方針でいる。しかし、日の丸を国旗とすることに比べて、君が代に対しては歌詞の内容に違和感を訴える野党議員は少なくない。政府内からも「日の丸に比べて、君が代を国歌とする方が法制化に向けたハードルは高い」(政府高官)との声が出ている。

日の丸と君が代を別の法律にしたのでは、同時に法制化することが難しくなる可能性もあることから、一つの法律とする方針を打ち出したものとみられる。「君が代」を、新憲法のもとでの国歌として位置づけるための説得力のある根拠をどう示すかが課題になりそうだ。

「こころの問題」
どのような法律となるかを予測するうえで参考になりそうなのが、自民党が野党に転落した1993年、同党の中山 正暉代議士らがまとめた「国旗法案」だ。4つの条文からなるこの法律は第三条で国旗掲揚を義務づける。これに対して政府は義務規定は盛らない方針だが、自民党内には教育現場での義務規定を法案に盛り込むべきだとの声は根強い。

米国などでは国旗を焼いたり汚したりする行為を国歌に対する侮辱罪と定め、刑事罰を科している。日本では刑法で、外国の国旗の損壊などに刑事罰を規定している(92条)。しかし、今度の法案に罰則規定盛り込むような動きは政府内にはみられない。義務規定と同じく、「個人の『こころ』の問題であり、法律で規制する事柄ではない」(政府高官)との態度だ。

激しい論議も
中山代議士らの自民党案は国旗について「尊厳を汚してはならない」と定めた。政府も何らかの表現で国旗や国歌を尊重する規定は設けることを検討している。しかし、教育現場や有識者からは「法制化で、日の丸掲揚や君が代斉唱にさらに大きな強制力がかかる」との懸念も出ている。この問題をめぐり激しい論議が交わされることになりそうだ。

1999年3月10日
自殺の校長は教組の犠牲者、広島県高校長協会長、参委員
広島県高等学校長協会長の岸元学・広島国泰寺高校長が10日の参院予算委員会に参考人として出席し、「自殺した世羅高校の石川敏浩校長は、広島県高教組などでつくる五社協の戦略の犠牲者」などと、君が代斉唱の実施に反対した教職員組合などを批判した。岸元校長は「県教委からの職務命令が校長を追いつめたというより、職務命令を出してもらえば、教職員を説得する材料になるので、出してもらえないかという気持ちが校長の間にはあった」と述べた。

1999年3月10日
「日の丸・君が代」法案、今国会に提出、 野中官房長官が意向
野中広務官房長官は9日の参院総務委員会で、日の丸を国旗とし、君が代を国歌として定める法案について「できれば今国会中にでも提示するような運びにしたい」と述べ、開会中の通常国会への提出を目指す考えを表明した。提出時期について、野中氏はこれまで「早ければ年内にも」との考えを示していた。また、「日の丸・君が代」を尊重することを定める規定について政府首脳は同日、学校で日の丸掲揚、君が代斉唱の指導をやりやすくするためにも、何らかの尊重規定は必要との考えを示した。

野中氏は9日夕の会見で今国会提出を目指す理由について「可能な限り早い時期に国会で審議頂くのがよいのではないか、という気持ちを率直に披れき(注)した」と説明。この問題をめぐり、国会審議が長期化する可能性などを見越した判断であることをうかがわせた。

政府は先月末の広島県立世羅高校長の自殺をきっかけに、野中氏が中心となって「日の丸・君が代」の法制化を検討する方針を決め、古川貞二郎官房副長官を中心に法案の内容などを詰めている。政府関係者によると、各党の検討を重視し、大方の政党が支持できる内容を目指すという。野中氏は、こうした作業が順調に進むことを前提に6月中旬までが会期の今国会に提出する考えを示した。

法制化に関連して政府首脳は、日の丸掲揚や君が代斉唱を義務化する「順守規定」を入れることには否定的な考えを示した。ただ、学校での指導を徹底させるためには、何らかの尊重規定が必要との考えを示した。


1999年3月10日
日の丸・君が代法制化、今国会中提案、首相が強調
参院予算委員会は10日午前、「教育・環境・福祉」について集中審議をした。このなかで、日の丸、君が代の法制化問題が取り上げられ、小渕恵三首相は「できれば今通常国会で法案提出の運びになるのが望ましい」と述べ、通常国会中の法案提出を目指す方針を強調した。また、野中広務官房長官は「学校現場のためだけでなく、国歌の尊厳をかけていいことだと考え、検討を指示した。学校現場で法制化して義務づけるのは選ぶ道ではないと今も思っている」とし、その法案には日の丸掲揚や君が代斉唱を義務化する規定は盛り込まない考えを改めて示した。自民党の矢野哲朗氏らの質問に答えた。

政府を突き上げ野党との溝拡大
「官房長官、もっと踏み込んだ見解を」。この日の論戦はまず、矢野哲朗氏ら自民党が政府を追及する異例の展開となった。矢野氏らは、法制化検討のきっかけとなった広島県立世羅高校校長の自殺について、参考人に呼んだ同県高等学校長協会の会長に質問。「卒業式で君が代を斉唱させるなら日の丸を引きずり降ろすという(教組や部落解放同盟側の)戦略の犠牲になった」などの発言を引き出したうえで、学校現場で指導を徹底させるための法的根拠として「尊重規定が必要」とたたみかけた。

自民党内では、参院の村上正邦前幹事長を中心とする勉強会で強制力の強い順守規定を求める声も出始めており、論議をリードしようとする自民党強硬派の動きが国会論戦の前面に出てきた形だ。

一方で、野党側では社民党が「アジア諸国には『右傾化が始まった』など敏感な受け止めがある」(清水澄子氏)と法制化に慎重な意見。民主、公明、共産など他党はほとんど本格的な質問はなかったが、各党とも慎重な検討を求める点では一致している。民主党の管直人代表は10日の記者会見で「法律化したから教育の場で義務化につなげる話ではない。中身の議論なしでは少し早すぎる」。

今国会で自民党との協調が目立つ公明党も、君が代の歌詞などに違和感を持つ若手議員が少なくなく、「今国会で急いでやろうとするとゴチャゴチャになる」(幹部)とけん制する。

こうした状況は小渕恵三首相ら政府側には頭の痛い問題だ。「国民的合意」が条件となる微妙な問題だけに、法案審議が紛糾する展開は避けたい。「一度にツパッと結論を出すためには、前もって各党のコンセンサスが必要」(首相周辺)だからだ。このため、与党の突き上げにも野党の反発にもこの日は「学校現場での義務化はなじまない」(野中広務官房長官)などほぼ同じ内容の答弁を繰り返した。


1999年3月11日
部落問題に蔵相が言及
宮沢喜一蔵相は10日の参院予算委員会で、広島県立世羅高校の校長が、卒業式での日の丸・君が代の扱いに悩んで自殺した問題に関して、同県内の教育界の状況に触れ「たくさんの人がいわばリンチにあい、職を失い、あるいは失望して職をやめる。なぜその戦いに勝てなかったのというと、基本的には部落という問題に関係がある。これについて報道することが差別発言になるということを報道機関は恐れていて、このことを口にすることができない」と述べた。

自民党の矢野哲朗氏が、広島7区選出の宮沢蔵相に「地元の問題としてどうとらえるか」と質問したのに答えた。蔵相が直接は所管していない問題でこうした答弁をするのは異例だ。蔵相の答弁に先立って参考人の岸元学・広島県高等学校長協会会長が、広島県内の卒業式での日の丸・君が代の扱いを説明した。

部落解放同盟広島県連合会から卒業式での君が代斉唱は同和教育と矛盾するという要望書を県教育委員会に提出すべきだ、と求められたことなどを指摘。「教育介入だ」と批判した。

宮沢蔵相は「共産党だけが実に勇敢に発言してきた。私自信も今日までこの事態の解決に寄与できなかったのを恥ずかしいと思っている。痛ましい校長の死によって、この問題を公に議論できるようになったというのが私の郷里の雰囲気だ」とも述べた。


1999年3月11日
協調路線に批判
一方、文部省は日教組との関係改善をうけて、90年から続けてきた全国の公立小中高校が対象の卒業式・入学式での日の丸・君が代実施率調査を96、97年の両年、中断した。だが、98年3月に埼玉県立所沢高校で卒業生の9割以上が卒業式をボイコットした事件をきっかけに自民党内で文部省の協調路線への批判が強まったため、98年から調査を復活させた。

こうした経緯から、左派系の組織の間では、法制化が日の丸・君が代の強制化につながりかねないという警戒感が強い。戸田恒美書記長が2日、「法制化の議論自体には反対しない」と述べたのに対し、日教組本部には各地の組織から「なぜ法制化反対を明言しないのか」との声が相次いで寄せられているという。


中央委は難航か
日教組の執行部は、君が代の歌詞に対する違和感を指摘しつつ、「性急に法制化することは反対」など、一定の条件をつけたうえで反対の姿勢を示す特別決議を中央委員会で提起するなどの案で収拾を図ろうとしているが、左派系の反発は必至だ。「日教組の運動の歴史からして法制化反対は当然だが、さりとて文部省との全面対決は避けたい。法制化論議がさたやみになってくれればいちばんいいのだが」(幹部)というのが執行部の本音のようだ。


1999年3月11日
日の丸・君が代の法制化、日教組、対応に苦慮
政府が「日の丸」を国旗、「君が代」を国歌とする法律について通常国会に提出し、成立を目指す方針を固めた問題で日教組が対応に苦慮している。1995年に文部省との関係を改善した際、それまで運動方針に掲げていた「日の丸・君が代の教育現場への押しつけ反対」を棚上げした。しかし、日教組内の左派系組織はその後も強制反対の方針を堅持しており、簡単に法制化支持は打ち出せない。反対を明確にすれば、文部省との協調路線が振り出しに戻りかねない。12日に予定されている中央委員会に向けての組織内の討議が難航しそうだ。


1999年3月13日
国旗・国歌尊重、精神的規定に、法案巡り官房長官
野中広務官房長官は12日の参院総務委員会で、日の丸を国旗とし君が代を国歌として定める法案について「掲揚や斉唱を義務づけるべきだとか、尊重責務を盛り込むべきだとの議論があるが、基本的には思想と良心の自由など憲法との関係も十分踏まえて対処していかなくてはいけない問題だ。尊重規定を精神的な規定として盛り込むことについては十分検討したい」と述べ、義務規定ではなく尊重規定を検討する考えを示した。海老原義彦氏(自民)の質問に答えた。


1999年3月16日
学校教育への外部圧力問題、文相
有馬朗人文相は15日の参院文教科学委員会で、日の丸、君が代の扱いをめぐって県立高校長が自殺した広島県での学校教育に関連して、「広島県の学校教育で外部の団体からの圧力がかなりみられることは問題だ。政治運動や社会運動との関係を明確に区分して教育の中立性が守られなければならない」と述べた。10日の参院予算委員会で参考人の岸元学・広島県高等学校長協会長が卒業式での君が代の扱いをめぐる部落解放同盟広島県連合会などの動きを「教育介入だ」と批判したことに、文相としても賛同する考えを示す発言だ。

文相はまた、広島県知事、県議会議長、県教育長、部落解放同盟県連、県高教組、県教組などでつくる「八者懇談会」が1985年に結んだ合意文書について、「運用によって教育の中立性がゆがめられる実態があると聞いており、そのような文書は問題があると考える」と述べた。合意文書は「差別事件の解決にあたっては関連団体とも連携し、学校および教育行政において誠意をもって主体的に取り組む」などの内容。


1999年3月20日
慎重論に配慮、野中氏が見解、「国旗・国歌法案」
野中広務官房長官は19日午後の記者会見で、公明党の冬柴鉄三幹事長が日の丸・君が代を国旗・国歌とする法案は成立を急ぐ必要がないとの考えを示したことについて、「可能な限り、今国会で成立させることが良いと考えているが、できるだけ多くの政党会派のご理解をいただいて決めるのがあるべき姿だと思う。より理解を得るための努力や、ご意見を賜らなくてはならないと思う」と述べ、野党の慎重論にも配慮する考えを示した。


1999年6月3日
君が代全学年に・総合学習、実施は来春から
小学校の音楽での「君が代」の扱いをめぐって、現行要領は「各学年を通じ、児童の発達段階に即して指導する」としてきた。これに対し新要領は「いずれの学年においても指導する」とより強い姿勢で臨むように求めており、今回の移行措置で来春からの先行実施が可能になった。文部省は「表現をより明確にした。意味するところに変更はない」としている。・・・


1999年8月10日
国旗・国歌法が成立
国旗・国歌法は9日午後の参院本会議で、賛成166票、反対71票で可決、成立した。自民、自由、公明三党などの賛成に加えて、衆院に続いて自主投票で臨んだ民主党・新緑風会も20人が賛成に回った。13日に公布・施行される。これを受けて文部省は、来春の卒業・入学式などに向けて小中高校での日の丸掲揚や君が代斉唱の指導を徹底するよう都道府県教育委員会などに指示する。教職員への職務命令が強化されれば生徒・児童への指導も強制的になるのではないか、といった国会審議で指摘された問題は明確になっておらず、「強制」をめぐる論議は続きそうだ。国旗・国歌法は「国旗は、日章旗とする」「国歌は、君が代とする」の二条からなり、尊重規定や罰則はない。参院本会議で民主党・新緑風会は、投票した51人のうち20人が賛成。衆院の採決でも、民主党のほぼ半数が賛成し、賛成403票、反対86票の大差となったが、参院も賛成が大きく過半数を超えた。共産、社民両党は衆院と同様、政府案と民主党の修正案ともに反対した。

文部省はいまのところ、通達やガイドラインなどの形で都道府県教委への指導を徹底する具体的な段取りは決めていないが、有馬朗人文相らは国会答弁で、教職員に法順守を求めるなど職務命令や処分を強める考えを示している。これに対して日教組は、今年の運動方針に5年ぶりに日の丸・君が代の「強制に反対する」方針を盛り込んでおり、学校現場での「強制反対」の運動を続けていく構えだ。

参院本会議の投票結果
賛成166票
反対71票
欠席・棄権13人
欠員1人

衆院本会議の投票結果
賛成403票
反対86票
欠席・棄権9人
欠員1人
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